国民年金法では、保険料滞納者に対して、

国民年金法第96条第1項
 保険料その他この法律の規定による徴収金を滞納する者があるときは、社会保険庁長官は、期限を指定して、これを督促することができる。

と規定しているが、この条文を厚生年金保険や健康保険のように

厚生年金保険法第86条
 保険料その他この法律(括弧書き省略)の規定による徴収金を滞納する者があるときは、社会保険庁長官は、期限を指定して、これを督促しなければならない。以下省略。

健康保険法第180条
 保険料その他この法律の規定による徴収金を滞納する者があるときは、保険者は、期限を指定して、これを督促しなければならない。以下省略。

「督促することができる」を「督促しなければならない」と書きかえることで滞納の問題はほぼ解決します。また、時効の問題もこれで解決となります。

滞納者には督促状を発し、延滞金14.6%を課し、それでも納付しない者には繰り返し督促状を発することにより時効を中断します。また、強制執行等も行い、まさに強制的に徴収することが可能です。

現に、

国民年金法第96条第4項
 社会保険庁長官は、第一項の規定による督促を受けた者がその指定の期限までに保険料その他この法律の規定による徴収金を納付しないときは、国税滞納処分の例によつてこれを処分し、以下省略。

つまり、督促状さえ発行すれば、国民年金保険料だろうが国民年金保険税だろうが関係なく強制的に徴収できることになる。しかし、国民年金保険税となると国税となるので、市町村民税との先取り特権の問題が発生する。これにより、市町村財政に打撃を与える虞も出てくる。

先取り特権の問題はここでは割愛し、国民健康保険料・国民健康保険税いずれにしても、現行の法律を改正し、社会保険並に規定することにより理論上は解決するのだが、現実には、これでは解決しないし、この手法で解決してはいけない問題である。そこに、国民年金未納問題の難しさがあり、前向きな議論が必要になる部分である。

国民年金をはじめとする公的年金や社会保険制度は基本的には太陽政策を採ってきた。しかし、太陽政策では国民年金の未納問題等は必ず発生する問題であり、太陽政策では未納問題を一掃することは難しいであろう。しかし、かといって北風政策に転換し条文改正をすることは現実的でない。すると、この部分に「所要の調整」が必要であり、いわゆる「さじ加減」の部分が発生するのである。

また、国民年金は日本国及び日本国民全体に公平に適用されるべき法律であるため、日本国全体で同じ「さじ加減」が求められる。つまり、さじ加減といってもさじ加減の程度を厳格に規定するわけだから、地域間格差の問題がどうしても発生してしまう。

以上を踏まえてどの程度のさじ加減が日本の実情にあい実効的なさじ加減になるのだろうかを検討する必要がある。もちろんこのさじ加減も単一の施策ではなく複数の施策を組み合わせて実効性を上げていくものである。現在行われつつある施策について少し考えてみよう。

 今後の改正で個人的に興味深いのが社会保険の被保険者資格の基準の改正である。日本人が国際社会で活動する上で諸外国との年金協定は必要不可欠な協定であろう。当該改正により年金協定の締結の促進が大きく期待できる。しかし、年金協定は日本人が国際社会で活動する上での衛生要因であり促進要因でない。そこで、パートさん等を多く抱える小売業等に反対意見も多いが、いつまでも、国際基準からかけ離れた認定基準を設定しておくことはできないだろうから、早期に実現を望むところである。この施策により第3号被保険者から第2号被保険者に移行する人の分については国民年金財政には影響を与えない。同様に第1号被保険者から第2号被保険者に移行する分についても一見国民年金財政には影響を与えないようにみえるが、現実には、被用者年金各法から国民年金へは基礎年金納付金ではなく基礎年金拠出金として支払われるので、国民年金財政から見れば収入と給付のバランスがより一層保てるようになると見込まれる。また、第1号被保険者が第2号被保険者となることにより、当該被保険者について保険料滞納の問題が無くなり未納問題も解消する。但し、厚生年金の保険料の納付義務者は事業主であるために完全に滞納問題が解消するわけではないことに注意を要する。しかし、この施策は厚生年金保険をはじめとする被用者年金各法にとっては、基礎年金拠出金と被用者年金各法の給付との兼ね合いで、被用者年金各法にとっては、歓迎しない施策であろう。例えば厚生年金においては、98千円等級より下の等級が生じることは、上限等級の改正に影響を与えるため大きな問題となる。諸外国を参考にするなら最低等級は50千円等級程度が妥当だろうが、今回は58千円等級になるようだ。果たして、このさじ加減が本当に妥当なさじ加減なのかどうか施策が導入されていない現在では観察できないので、施策導入後の推移を観察していきたい。

この問題は健康保険にも大きく影響する問題である。健康保険財政は単年度では収入が支出を上回っているが、国民年金第1号被保険者及び第3号被保険者が第2号被保険者となるということは、健康保険の被扶養者が被保険者になる(第1号被保険者または第3号被保険者が第2号被保険者となる等)及び国民健康保険の被保険者等健康保険に関係ない者が被保険者となる(第1号被保険者が第2号被保険者になる等)があり、いずれの場合も健康保険財政の改善につながるが、反面、国民健康保険等から現役世代の被保険者を健康保険に移行することになり老人保健の拠出金の分を差し引いても国民健康保険財政に対しては打撃を与えることになってしまう。この部分も施策導入後の推移を観察したい。