では、今までに施された「さじ加減」を考えてみましょう。

昭和61年の新法施行日時点では、20歳以上60歳未満の学生は任意加入の対象でした。つまり、20歳以上60歳未満の学生の期間は任意加入して保険料を納付すれば保険料納付済期間、任意加入しなかったら合算対象期間となったわけです。従って、この期間について滞納期間が発生することはありませんでした。しかし、学生期間中に保険事故に該当した場合に被保険者期間がないために国民年金の給付を受給できないケースが発生しました。具体的には、学生期間中に初診日がある病気やケガで障害を負われた方や学生結婚をされていた方で夫が亡くなった場合の残された妻と子供等です。

そこで、平成3年4月1日より強制加入となったのですが、任意加入の対象から強制加入となったことにより、この期間に滞納期間が発生しました。したがって、保険料納付要件を見るときに、学生期間のみならず卒業後の期間についても一定期間3分の2以上要件を満たさない場合が発生してきました。

ところで、平成3年以降の学生の納付実態を考察すると、両親が支払う又は滞納という状況が顕著でした。本来国民年金の保険料は本人(被保険者)が支払うべきものですが世帯主も連帯して納付義務を負います。しかし、学生(被保険者)には一般的に支払能力がないために、保険料の支払いは殆どがご両親となりました。

そこで、学生の納付特例を導入し、学生期間については、本人の所得だけを見て免除に該当するかどうか判断し、免除に該当する場合は学生の納付特例を適用しました。

学生の納付特例は非常におもしろい制度でよく考えられた制度だと思います。

まず、保険料の納付義務は世帯主が被保険者に連帯して負うことになっていますので、大学生をもつ家庭は所得があり免除申請を出しても免除にならないケースが一般的でした。そこで、学生の納付特例では世帯主の所得を問うことなく学生の所得だけで判断することにしました。これにより、殆どの学生が納付特例に該当するようになりました。

学生の納付特例は、免除に分類されますが、免除ではなく保険料の支払猶予です。つまり、納付特例期間は保険料の支払いが猶予され、10年以内に支払えばいいというものです。基本的には学生の納付特例に該当する人は免除にも該当します。しかし、保険料免除等と学生の納付特例の選択はできず学生の納付特例となります。

学生期間を強制適用として、強制徴収に重きを置くのでなく、本人(被保険者)による前向きな保険料の支払いに重点を置いた非常におもしろい制度であり、微妙な「さじ加減」が施された制度であるといえます。

これにより学生の保険料滞納が減少しました。

しかし、問題もあります。まず、学生期間中の保険料は免除ではなく支払猶予ですので、卒業後支払う必要があります。卒業後支払う必要があり、卒業後支払う場合(2年経過後)は利息が付くという点も考えると学生の納付特例を申請せず、ご両親が支払うという場合が散見されます。すると、この制度導入の一つのきっかけとなった。「被保険者の保険料をご両親が支払う」問題を全面的に解消することはできませんでした。

つぎに、学生の納付特例を申請しておきながら、卒業後追納しない方もいます。この方々については、後日追納がない場合は当該期間は未納期間となります。卒業後働き出すと一般的には国民年金の被保険者種別を問わず保険料は納付されますが、学生期間の追納がなされない場合は、保険料納付要件を問う必要が出てきた場合に、問題となります。例えば、オーバードクターも含めて博士課程を30歳で終了した人が就職し全く追納しない場合に保険料納付要件を満たすためには、50歳までかかる計算になります。

この様な方を救済する必要があるのかという問題はありますが、救済するとなれば新たな「さじ加減」が必要になります。具体的には、平成28年までは時限立法として保険料納付要件の特例がありますが、保険料納付要件の特例の期間を延長するか、そもそも、期間の限定を撤廃する等です。また、学生の納付特例の追納について、納付書の月単位でなく金額単位の発行等もおもしろいでしょう。

しかし、学生の納付特例は学生及びご両親に対する周知が行き渡っておらず、学生の納付特例を知らないと言う学生も沢山います。今後大学等で周知を徹底する必要があるでしょう。

また、学生でありながら、「無職」と偽り、一般の免除申請をする方もいます。この場合は支払猶予ではなく免除になりますので、追納期間を経過しても保険料納付要件の問題は発生しません。しかし、正直に申請をした人は学生の納付特例で、偽りの申請をすれば免除となれば公平性が保てません。従って、偽りの申請の問題については、なんらかの対処が必要になるわけです。