国民年金をはじめとする公的年金の発展に伴い、ご夫婦の間に経済的従属の問題が発生しました。特に昭和30年代から昭和40年代にかけての高度経済成長期に日本社会で「専業主婦」が出現しました。専業主婦は日本の雇用環境の変化に伴い、終身雇用制が発現し年功序列給が浸透しはじめた頃、企業の解雇権の行使について判例等で厳しい制限が付いた見返りに、配置転換や転勤等について広範な裁量権を認めたところに原因があると分析されます。特に年功序列給における「家族手当」は専業主婦層の出現を増長したと言えるでしょう。

しかし、個別の家庭での専業主婦層を分析すると円満な家庭もありますが、円満でない家庭もあります。亭主関白等でも円満であれば問題はないのですが、亭主関白等で且つ円満でない家庭においては、専業主婦は夫に経済的従属を強いられることになります。昭和61年に新法が施行されるまでは、専業主婦は国民年金任意加入でしたので、老後において、専業主婦は無年金となる場合が多く、するとこの方々は現役時代はもとより老後時代においても夫に経済的従属を強いられることになり、なんらかの対策が必要となりました。

また、経済的に余裕のある家庭の専業主婦の方は国民年金に任意加入し、経済的厳しい家庭は目先の生活費のために国民年金に任意加入しないという傾向にありました。国民年金に任意加入しないということは、この方は将来無年金となります。すると、裕福な家庭はご夫婦ともに年金が受給できるのに、そうでない家庭はご夫婦の一方にしか年金が支給されず、老後においても厳しい生活が続くことになります。本来所得の少ない層に手厚くし高所得層に応分の負担をお願いする事により社会保障が成り立ち社会保障としての機能を果たすことになるのですが、旧法の制度ではこの部分は不完全でした。

ところで、男性サラリーマンの方の所得は男性サラリーマンの方の働きだけで獲られるものでしょうか? やはり、内助の功があり仕事ができるものであります。しかし、旧法では内助の功の部分は年金として反映されませんでした。

新法ではこれらの問題の解決策として、第3号被保険者の制度を設けたわけです。第3号被保険者についてよく勘違いされますが、第3号被保険者はサラリーマンの内助の功に答える部分ですので、第3号被保険者の保険料は被用者年金各法より国民年金に第2号被保険者の分と併せて基礎年金拠出金として支払われます。つまり、第3号被保険者も保険料を支払っているわけです。この部分を否定すると同じ基礎年金拠出金で保険料を支払っている第2号被保険者も保険料を支払っていないことになります。社会保険事務所に直接支払っているかその他の方法で支払っているかという支払方法の差であり、支払っていることにはかわりありません。

第3号被保険者制度の導入により専業主婦にも基礎年金の受給権が発生し将来無年金となることを防げるようになりました。また、経済的従属からの脱却も図れるようになりました。しかし、基礎年金だけでは生活費としては不十分でした。新法により国民年金が基礎年金となり厚生年金等被用者年金が2階建て年金の2階部分として機能して、基礎年金の受給権を満たすことを条件に被用者年金の受給権を発生させることにより、専業主婦についても過去の勤務時の厚生年金歴に応じて厚生年金が支給されるようになりました。

この結果旧法時代では、一時金を受給するか掛け捨てになっていた専業主婦層の厚生年金が活かされるようになりました。

また、昭和61年4月以降の厚生年金の期間も活かされるようになりましたので、女性の年金額は飛躍的に伸びました。

専業主婦層が経済的従属から解放されると同時に日本では高齢者離婚が増えるという事態も発生しました。高齢期において女性の収入が確保されるようになりましたので、離婚しやすくなったからでしょうね。

また、厚生年金についても離婚時に分割する制度も導入されます。これにより公的年金において夫婦間の平等が図られようとしています。

しかし、第3号被保険者の制度は手続きの仕方が複雑だったため、手続き忘れが続発し折角の制度がいかされない場合がありました。そこで、「さじ加減」ですが、最初に第3号被保険者の手続きを健康保険の被扶養者認定と同時に行うようにしました。このことにより手続き忘れが激減しました。また、従来手続き忘れは2年間しか遡及しませんでしたが、さかのぼりについて2年間という限定を廃止し、第3号被保険者に該当したときまで遡れるようになりました。これにより過去の届出忘れも解消するようになりました。また、この遡及は既に受給中の方にも適用しますので、心当たりのある方は今からでも社会保険事務所に相談してください。第3号被保険者と認められた期間分年金の受給額が増えることがあります。

今後の課題としては、やはり第3号被保険者の制度と手続きをしっかりと説明して誤解を解消して適切な手続きをしていただけるように工夫する必要があるでしょう。具体的には、学校教育の現場等で説明会を開催するなど次代の年金被保険者層に正しい説明をすることが重要だと思います。また現役の被保険者の方についても、定期的に無料の説明会を開催する必要があるでしょう。